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映画「長崎の郵便配達」川瀬美香監督インタビュー

STLOCAL編集部

更新日:2021.12.22
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谷口稜曄さんを取材した父の長崎での足跡を辿る旅

ドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」の中心人物となるのは、1945年8月9日に投下された原子爆弾による被爆者である故・谷口稜曄(すみてる)さんです。これまで多くの方に被爆体験を語りながら、核兵器の廃絶・世界平和を長年訴え続けてきた谷口さんの活動を未来に伝えるため、川瀬美香監督はカメラをまわし始めます。しかし、2017年8月に谷口さんは故人となりました。

谷口さんを1982年にインタビュー取材し、その証言を書籍化したのが、フランス作家の故・ピーター・タウンゼントさん。川瀬監督がピーターさんの娘であるイザベル・タウンゼントさんにコンタクトをとりフランスを訪れたところから、この映画の制作はスタートします。

映画の中で、イザベルさんは初めて長崎を訪れます。父はなぜ長崎まで足を運び谷口さんの体験を綴ったのか。そしてどんなことを感じたのか。父の足跡を辿りながら、本に込められた平和への想いをひもといていきます。

 

今回、このドキュメンタリー映画の監督である川瀬美香監督にインタビューを行いました。紆余曲折があった映画制作の中で感じたこと、谷口さんやイザベルさんへの想い、そして未来に向けたメッセージなどを伺いました。

 

映画「長崎の郵便配達」
https://nagasaki.essay.tokyo

 

「映画化するなんて手に負えない」と感じた谷口さんの活動と平和という重いテーマ

川瀬美香監督

川瀬美香監督

ー谷口稜曄さんとの出会い、そしてこの映画を撮り始めたきっかけについて教えてください。

2014年に知人の紹介で初めてお会いしました。その日はホテルのロビーで待ち合わせていたんです。早めに到着して待っていると、玄関の外でタバコを吸っている、素敵な立ち姿の紳士がふと目に留まりました。それが谷口さんでした。普段はやんちゃな側面を持っていながら、覚悟を決めて平和への想いを語る姿が印象的な方でした。

正直、最初は映画化するなんて手に負えないと責任の重さを感じていたんです。そこから一歩踏み出すきっかけになったのが、谷口さんを取材したピーターさんの娘である、イザベルさんとの出会いでした。2016年にフランスのご自宅を訪問して言葉を交わす中で、彼女の未来に向かう意欲に共感したことから、谷口さんとピーターさん、そしてイザベルさんの3人を軸に映画を撮ることを決意しました。

 

ーしかし翌年の2017年に谷口さんは亡くなってしまいます。川瀬監督ご自身、そして映画の制作にも大きな影響があったのでしょうか。

知らせを聞いた時は本当に愕然として、私とイザベルさんにとっても大きなショックでした。映画では、イザベルさんが谷口さんに会いに長崎を訪れる場面を中心に考えていましたが、それも叶わなくなりました。しかしその後、ピーターさんが谷口さんを取材した際に録音したテープが発見されたんです。残された声を聞きながらイザベルさんが長崎を訪れて、亡くなられた谷口さんの精霊船を見送り、父の足跡を辿る。そうした映画の組み立てで再スタートすることにしたんです。

 

イザベルさんの自然体な姿をそのまま撮影 多くを語らず、観る人に想像させるカット

イザベル・タウンゼントさん

ー2018年8月に、イザベルさんは家族と2週間近く長崎に滞在しました。映画では、街を歩いて景色を眺める様子や、谷口さんやピーターさんにゆかりのある方々との出会いがカメラに収められていますが、どのように撮影を進めたのでしょうか。

簡単な予定以外、ほとんどイザベルさんに伝えませんでした。その場所で何を感じ、何を話し、どう行動するのか、自然体な姿を撮った映画を作りたかったんです。もちろん撮影前に、監督としての演出や、ある種のたくらみをついつい考えてしまうこともありますが、現場が動き出すと全て捨て去ることになります。そこで起こる事実が一番ですし、伝わるんですよね。

 

谷口さんの精霊船を押すイザベルさん。この場面でも川瀬監督からの指示はなく、イザベルさんは自然と列に加わったそう。

 

そしてドキュメンタリー映画でありながら、細かな語りや説明はなるべく省略して、観客が想像する余白を残すようにしました。戦後76年も経って、写真や資料は残されていますが、当時を直接知る人は少なくなりました。街並みも大きく変わっています。これからは、私たち一人ひとりが想像することが大切な時代になっていくと思います。

 

身近な人との生活から始まる平和「あなたもぜひ、配達してください」

ー私たちにも、平和に向けて何かできることはありますか。

まずは友人や家族など、身近な人と平和について話すことです。私は生活の一番近くにあるのが平和だと思っていて、人と話すことで、少しずつ意識が向かっていくのが重要だと考えています。必ずしも大げさな行動でなくてもいいんです。赤い自転車に乗った谷口さんのように、平和への願いを配達すればいいんですよ。あなたもぜひ、配達してください。

 

ー最後に、完成した映画についての川瀬監督の想いを聞かせてください。

この映画を制作する上で、原爆や平和だけをテーマにするつもりはありませんでした。かつてピーターさんが谷口さんを訪ねて、2週間に渡って取材して本を出版する。その過程で、立場も国籍も異なる二人の間に、友情が芽生えるんです。私はそれがすごく素敵だと感じました。そして娘のイザベルさんが父の足跡を辿る中で、長崎のいろんな人と出会う。こうした人と人との繋がりは普遍的なものです。映画を通して、その繋がりを次の世代に渡していくことができれば、とても嬉しいことだと思います。

 

「長崎の郵便配達」ロケ地紹介

長崎の印象的なロケ地についても川瀬監督に伺いました。

烏岩神社

谷口さんが暮らしていた自宅近くにある烏岩神社。道路ができるまでは200段の石段を、赤い自転車を担いで毎日往復していたそうです。映画の中で、イザベルさんも実際に石段を上ります。「撮影のために何度も往復しましたが、イザベルさんは文句一つ言いませんでした。本当に大変だったと思います」と川瀬監督。

 

稲佐山展望台

長崎を代表する景観地である稲佐山。展望台からは、港に向かって広がる長崎市中心部の街並みを一望することができます。映画の冒頭、イザベルさんはこの展望台を訪れます。無言で街を見下ろす真剣な表情からは、この場所で起こった戦争の歴史に想いを馳せる様子が伝わってきます。

 

※情報は取材当時のものです。詳細は公式サイトなどでも事前確認することをおすすめします。

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