【長崎グルメ】気取らずカウンターで楽しむ長崎ならではの絶品おでん【桃若】
2022/9/26 公開
思案橋・丸山
長崎市随一の繁華街である思案橋。数ある名店が誇る自慢のグルメに目移りしてしまいますが、じんわりとおいしさが体と心にしみるおでんはいかがでしょうか。思案橋横丁をぶらぶら歩いた道すがら、控え目な看板と無性に惹かれる赤提灯が目印の「桃若」は、常連や観光客がこぞって集まる老舗。カウンターに座り、おでんをつつきながらお酒を堪能すれば、肩の力が抜けて自然と会話も弾みます。今回は4代目の松山貴則さんにお話を伺いながら、実際におでんを味わってきました。
名物「長崎おでん」を代々受け継ぐ専門店
「桃若」の創業は昭和6年。思案橋近くに店を構えて、大衆的なおでんの専門店として歴史を重ねてきました。長崎といえば有名なのが、地元で獲れた新鮮な魚を使った蒲鉾。魚種別漁獲量が全国1位である長崎の蒲鉾は種類が豊富で、多彩な蒲鉾をふんだんに盛り込んだおでんは「長崎おでん」と呼ばれています。歯応えの良さと豊かな旨みが特徴です。
店内の真ん中には熱々のおでん鍋が置かれ、それを囲むようにL字型のカウンターがあります。テーブル席もありますが、桃若は断然、このカウンター席がオススメ!常連客も初めての人も自然と距離が縮まり、いつの間にか賑やかな会話が始まります。
「うちはおでん屋だから、冬が繁忙期なんですよ。ぜひ夏に来てくれたら、お客さんゆっくりできますよ(笑)」なんて冗談を言う松山さん。さっとネタをよそいながら軽快なトークで楽しませてくれます。「このカウンターに座れば、肩書きも年齢も関係なし。以前、常連のグループ同士がカウンターで意気投合して、そのまま別の店に飲みに行くことになって。仲良くなった人同士で結婚したって後から話を聞きましたよ」とのこと。人情味溢れる老舗は、まさにエピソードの宝庫だ。
実はもともとサラリーマンをしていたという松山さん。ひょんなきっかけで早期退職を決意し、後継ぎとしてお店に入ることになった。それからあっという間に24年以上が経ったそうで「とにかく修行の毎日」と振り返る。「冬なんかはほとんど休日もなくお店に立って、他の時間はほとんど具材の仕込み。大根なんか、もう目を閉じてもきれいに皮が剥けますよ(笑)」。
この仕込みが、味を左右する大切な要素。食材は馴染みの野菜屋さんに依頼し、季節に合わせて最適な産地のものを仕入れています。「同じ大根でも、下ごしらえのたく時間によって全然味が違う。沸騰する瞬間のギリギリを見極めて火を止めないと、すぐダメになってしまう」。一見シンプルで素朴なおでんだからこそ、当たり前の作業に気を抜かない。松山さんの真面目な向き合い方が感じられます。
やさしい味のしみたおでん、いただきます
それでは実際に、おでんを食べていきたいと思います!まず注文したのは、松山さん(と隣に座っていた常連の方)の一押しである「とうふ」、色鮮やかな「ぎんなん」、そして長崎おでんならではの「竜眼」です。ちなみにおでんの値段は180円からと良心的。
いろんな具材の旨みをこれでもかとまとった豆腐、もうこれは我慢ならないと一口……うまい、しみる、やさしい!いくらでも食べられそうなおいしさがふんわり広がります。ちなみに柚子胡椒との相性が抜群なので、ぜひ試してほしいです。
長崎おでんの名物である「竜眼」は、ゆで卵を魚のすり身で包んであげた蒲鉾。卵と魚介の旨みが混ざり合い、濃厚な味わいを楽しめます。食べ応えもあり満足感のある逸品です。
そして追加で頼んだのが「くるまふ」と「いわしのかまぼこ」。おふのおいしさは隣の常連客の方のお墨付きです。もう食べる前から期待が高まりますが、その期待を上回るおいしさです。いわしの蒲鉾も間違いありません。というか長崎おでんの蒲鉾は、本当においしさが際立っています。その食感と風味は他にはない魅力だと思います。
創業100年に向けて、地道に一歩ずつ
松山さんの母である先代の由美子さんも、おでん台の前に立ちます。店名の由来について尋ねると「お店を立ち上げたうちの祖母が、もともと丸山で芸妓さんをしよったと。その時の名前が“桃若”で、そのままお店の名前にしたとよ」とのこと。思案橋らしい歴史を感じさせる、興味深いお話です。
夜の繁華街にある桃若も、新型コロナウイルス感染拡大による影響はかなり受けたそう。休業要請に従って何度もお店を閉めることになり、松山さんも気分が乗らなかったと話します。ここしばらくはやっと感染者数が落ち着き、少しずつ客足も戻ってきました。
「あと10年したら、創業から100年の節目になります。とりあえず、そこを目標にまだまだ頑張っていかないと」と先を見据える松山さん。桃若という場所に集い、交流を深めてきた常連客は、100年目もその先も、ふらっと足を運べる桃若が思案橋に在り続けてほしいと願っています。そして初めて訪れた人も、カウンターに座って談笑しながらおでんを食べれば、きっとすぐに同じ気持ちになるはずです。
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この記事を書いた人
藤本編集局 藤本明宏
ライター
長崎県在住のライター・インタビュアーです。人とまっすぐ向き合い、心のこもった文章を書いていきたいと思います。また普段から、インタビューで長く、ゆっくりと話を深めることに意識を向けています。
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